美術館・博物館巡り

去年の夏くらいから,しばしば美術館や博物館を巡っている.感想を書き溜めていたので,まとめて記事にする.

7/12 エッシャー美術館(オランダ,デン・ハーグ)

国際学会でオランダに来ていた.オランダはゴッホやフェルメールといった有名な画家を輩出している芸術大国であるらしい.美術館もたくさんある.美術館に行く趣味は特にないのだが,せっかくなら1つくらい行ってみるかあと思い,滞在していたデン・ハーグ市にあるエッシャー美術館に行ってみた.

芸術には全然詳しくないのだが,エッシャーには元々興味があった.だいたい,「ゲーデル,エッシャー,バッハ ― あるいは不思議の環」(以下 GEB)という怪しい本の影響である.この本を読んで,エッシャーという画家が数学的に面白い絵をいろいろ書いているのを知った.もちろん,「滝」とかは有名なので小さい頃から存在を知っていた.

入り口はこんな感じ.ところでオランダって本当に道は石畳だし建物も石でできていて感動したよね.写真で見た通りのヨーロッパがそこにあって最高だった.

受付でどこから来たのか問われ,日本からというと日本語のパンフレットを手渡された.すごい.

エッシャーが生涯に渡って手掛けたさまざまな作品が展示されていた.エッシャーの作品が全部版画だってこのときはじめて知った.エッシャーの初期の作品は,風景とか生き物とか人物とかの絵だった.それで,あるときから急に平面の敷き詰めとか不可能図形とか多面体とかを描きはじめる.

平面の敷き詰めについては,規則的なものもあれば不規則的なものもあって面白い.エッシャーの絵に出てくる生き物とかオブジェクトって,なんか不気味さというかグロさというか気持ち悪さがあるんだけど,それもいい味を出している.

あとはいろんな図形とかも描いていた.トーラスとかメビウスの輪とか結び目とかの面白い図形とか,多面体とか.一番好きだったのは "Gravitation" という作品かな.エッシャーの作品の中では群を抜いてカラフルであり,きれいな星型が描いてあるので目を引かれる.何が描いてあるんだろう,とよく目を凝らすと,カラフルだったのは謎の生き物.あちこち向いているので,これはどうしたことか,としばらく眺めると,あ,重力がこういうふうになっているのか〜と理解する瞬間がある.

エッシャーの絵は,ぱっと見何が描いてあるのか,なにがどうなっているのかよくわからないけれど,よく見ると法則があって面白い,というものが多い.法則に気づいたときの快感は数学の問題がわかったときのそれに似ている.

GEB に書いてあって面白かった記憶があるのは,この絵はレベル1のループになっていて,

この絵はレベル2のループになっているということ.

つまり1つ目の絵では,絵を展示しているギャラリー自体がその絵の一部であるという,直接的な自己言及が起こっている.2つ目の絵では,手1が手2を描き,手2が手1を描くという,別の手を介した循環参照が起こっている.面白い.こういう話好き.

1つ目の絵についてもっと面白い話がある.絵の真ん中は空白になってごまかされているが,ここには本来何が入るべきなのだろうと研究した数学者がいる.その研究の結論はこうだ.元の絵を縮小してちょっと回転させて,その空白の中に埋め込む.すると,もとの空白が埋まるが,埋め込まれた絵の真ん中にも空白があるので,小さい空白が絵の真ん中に残る.この小さい空白にも,元の絵を更に縮小したものを埋め込む.こうして,どんどん小さくなる空白に元の絵をどんどん縮小して埋め込み続けるというのを無限に繰り返すと全体が埋まる.要するにフラクタルである.こういう研究いいな.

エッシャーがとても面白かったので,帰りにショップで画集を買っちゃった.

満足だった.芸術の知識は全然ないが,純粋に描かれているものが面白かったのと, GEB を読んで少しエッシャーの知識があったおかげでとても楽しめた.

7/12 マウリッツハイス美術館(オランダ,デン・ハーグ)

エッシャー美術館に行ったあとは,同じくデン・ハーグにあるマウリッツハイス美術館に行ってきた.こんな可愛らしい建物がそれである.

ここのコレクションでいちばん有名なのが,フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」.

フェルメールの何がすごいのかこの絵の何がすごいのか,よくわからないけれど,「絵が上手だなー」という感想を抱いた.ここで絵が上手というのは,対象がとてもリアルに見えるという意味である.光の当たり方ひとつとっても,顔の陰影とか,目や唇,耳飾りでの反射とか,布の凹凸とか,まるで写真のように立体的に見える.

この「絵が上手だなー」という感想はこの美術館にある他のあらゆる作品に対しても感じた.どの作品も,対象を忠実に写し取ることを目的としているようなのである.これは日本の絵と対照的だと思った.日本の絵はお世辞にもリアルとは言えない.それは技術がなかったというわけではなく,リアルさを別に求めていなかったからなのだろうか.それでは日本の絵は何を求めていたのだろうか.逆に西洋の絵は,どうしてリアルさを求めるようになったのか.西洋の絵でリアルさを求めていないものはあるのだろうか.そうえいばゴッホとかピカソは別にリアルじゃないな.......

リアルさに関して,一番ビックリしたのが "still life" いわゆる静物画である.花とか虫とか食べ物とかを描いた絵だ.どれも,本当に写真のようなのである.ガラスや水の透明感とか,花びらとかパンの表面の細かい凹凸とか陰影とか,信じられないくらい精巧に描かれている.これ本当に写真じゃないの?と三度見くらいしてようやく,ああ,絵の具の跡があるな,と気づく.

逆になんで,人物画は絵だと簡単にわかるのだろう.

あと気づいたことは,時代によって描かれる対象が変わっていることかな.大昔は宗教画ばかりなのに,時代を経るといろいろなものが描かれるようになっている.これくらいの雑な解像度でしか見れていないけれど.

ただ絵を見て,すごいなーきれいだなーと感じるだけでも楽しいけど,背景知識があったらもっと面白いのかな,と思ったりした.少し勉強してみようと思った.

帰りにショップに寄ったら,真珠の耳飾りの少女のジグゾーパズル(1000ピース)が置いてあり,久しぶりにやりたくなったので買っちゃった.顔は割とすぐ埋まったが,背景が真っ黒で不可能すぎる.背景を埋めたくなさすぎて実家に放置していたら,母がいつの間にか完成させていた.

7/13 アムステルダム国立美術館(オランダ,アムステルダム)

帰国前に,空港があるアムステルダムに移動.ここでも暇があったので,アムステルダム国立美術館に行ってみた.アムステルダムには他にもゴッホ美術館があるが,ここは人気すぎてチケットが取れなかった.マウリッツハイスはこじんまりとした美術館だったけど,ここは国立美術館だけあってとても大きい.いろいろな作品が見れそうで楽しみ.

なんかでかい絵があった.なんの戦争?説明文を読んだ気がしたが......忘れた.

オランダは,鎖国していた日本が貿易していた数少ない国の1つである.日本コーナーがあった.出島の模型とか.

これはなんだか気に入った絵.近くで見ると絵の具をぐちゃぐちゃ重ねているだけなのに,引いてみるとちゃんと海に見える.色使いも面白い.エモい雰囲気が出ている.ずっと見ていられる.画家はヤン・トーロップというらしいが,存じ上げません.

有名な画家とそうでない画家,名画と呼ばれる絵とそうでない絵,いまいち違いがわからないというのが正直なところ.これも名画であることには間違いないんだろうが,それを超えて一般市民に知られるくらい有名な絵って,何がすごいんだろうか.

ここのコレクションで特に有名らしいのが,レンブラントの「夜警」.恥ずかしながら俺は知らず.......たまたま俺が行ったときは修復作業中で,絵のまわりに大掛かりな機材があって遮られていたが,それでもこの絵画の大きさを知るには十分だった.この絵,バカでかい.

フェルメール「牛乳を注ぐ女」.これは見たことある.

図書館の中が覗けた.すげ〜,ハリーポッターの世界.下を覗くと学芸員?の方が本を読んで作業していた.昔の絵とか好きならこういう仕事マジで楽しいだろうな.

ここも面白かった〜.1時間半くらい見ていたら閉館時間になったので最後の方は駆け足になってしまい,見きれないところもあったのが心残り.

8/17 出光美術館(東京)

用事で東京に来ることがちょくちょくある.今回は院試で東京に来ていた.

暇ができるとせっかくなので観光でもしようかと思うが,東京のメジャーな観光地はだいたい行ってしまった.そこで,オランダで美術館に行ってみて面白かったことを思い出し,東京の美術館でも行ってみようかと思い立った.東京には美術館はいくらでもあるので,美術館を楽しめるようになればしばらく観光に困ることがないとも考えた.東京に行く楽しみが増すというものである.

東京駅周辺にいたので,近くにある美術館を探し,出光美術館というのを見つけた.出光といえばウルトラマンみたいなロゴのガソリンスタンドのイメージか持っておらず,美術館があるとは知らなかった.

「日本の美・鑑賞入門 しりとり日本美術」という展示をしていた.しりとりに関する展示ではない.日本美術をいろいろ展示しているので,しりとりみたいに連想によって作品の間の関係とかを想像してみてくださいねという意図らしい.

写真禁止なので写真はない.

オランダで西洋美術に触れた後に,日本の美術に触れると違いがたくさん見えて面白い.まず,すでに言ったように日本の美術はリアルさを求めていない.風景画は平面的だし,人や動物はデフォルメされている.でも,「見たものをそのまま描くんじゃなくて,もっと個性を表現しようぜ!」という感じも違う気がするんだよなあ.というのは,リアルに見えない割には,いろんな画家が同じような描き方をする.顔のパーツの配置とか,雲とか波とか木とか,なんか標準的な描き方があるように見える.なぜこれに揃えようと思ったのか?なぜリアルさを求めなかったのか?

なんでだろうね.

あと西洋の絵画は板か紙かキャンバスか知らないけど,四角い平らなものの上に描いて,額縁に入れて飾ってある.日本の絵画はいろいろなところに描いてある.屏風とか,掛け軸とか,皿とか,壺とか,箱とか.......なんでだろうね.

一番印象に残っているのは山本梅逸「四季花鳥図屏風」かな.一瞬すごくカラフルに見えるんだけど,よく見ると色がかなり少なかったり.ごちゃごちゃ描いてあるけどそこに迫力があったり.よく見るとここにもあそこにも鳥が描いてあったり.ずっと見ていても飽きない.

9/15 森美術館(東京)

また東京に用事があったので来た.東京で芸術をやっている友人に,「森美術館で今やっている企画展が好きそう」とおすすめされたので行ってみる.

実は,森美術館に行くのははじめてではない.
randomthoughts.hatenablog.com
何を隠そう,その東京で芸術をやっている友人というのは,上の記事に登場する中学からの友人というのと同一人物である.この記事もう4年前なのか.......

今回の企画展では,「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」と題して,それぞれの教科に関連する現代アート作品を展示している.国語だったら詩だとか,社会だったら社会風刺的なやつだったりとか,算数だったら数学的な美(?)的なものを表現したやつとか,理科だったら化学反応とかを駆使した面白い作品とか,みたいな.

少し前に,軽く日本美術の本とかを読んでいたので,「美術を鑑賞するための知識を身に着けたぜ!現代アートどんとこい!」という気概で乗り込んでいったが,現代アートは昔のアートと全然違うということを何も知らなかったのだと思い知らされた.

まず国語のところ.写真撮ってなかったから何があったか忘れた.かなり短かった気がする.

次に社会.社会とか政治とかの風刺的なものが多いんですかねえ.社会とか政治に興味がないのであまり面白くなかった.......興味を持とう,持たなきゃいけないとは定期的に思っているが.......文化とか歴史はちょっと興味があるんだけどね.

それにしても,これってアートなんですか?みたいな作品が多かった.社会の負の側面みたいなものを写真に写したり取材したりして作品として展示しているようなもの.これってジャーナリズムと何が違うんだろうというのをずっと思っていた.

アートというものは美しいものを作ることだと思っていたが,どうも現代アートに関してはそうではないらしい.どうも「見て楽しむものから,考えて楽しむものに変わった」らしい.う〜〜〜んそれを楽しむためには対象に関する興味と知識が必要なんだろうが,どちらもなくて困った.

すみません出直してきます......という感じになっちゃったが,算数と理科のところなら俺にも理解できるかな〜という淡い期待を抱いて先に進んだ.

算数のところ.なんかの数式で表される曲面をそのまま彫刻にしたみたいなやつとか,

点とか線を描くアルゴリズムがあるんだがそれを手作業でやるためランダムネスが介入して,秩序と無秩序がどちらも現れる(みたいな感じの説明だった気がする違ったらごめんなさい)という作品とか.

えーこれって数学的な美なんですかね.あまりわからなかった.まあ曲面を彫刻にしたやつは,美しいんだけど当然というか,そりゃあ曲面は美しいんだからそれをそのまま彫刻にしたら美しいでしょう......新規性はどこに?とどうしても思ってしまった.

理科のところ.ここは結構面白かったかな.ピタゴラスイッチみたいなやつとか,動植物を題材にしたやつとかがあった.あとはこの靴とか面白かったなあ.揮発性の材料で靴を作ってガラスケースに入れると,靴が空気中に溶け出して,ガラスケースの面で結晶になるというやつ.何を表しているのかまではわからなかったが.......

なんかかなり不完全燃焼で終わった.現代アートってこんな感じなんだ,という衝撃を受けた.あまりにも何もわからず,芸術ってなんなんだろうと考えさせられた.こういうことを俺に考えさせた時点で現代アートはその目的の一部をすでに達成しているのかもしれない.

美しいものだけ見ていたいという考えは甘いんですかね.

難しい.......出直してきます.

そういえば4年前に来たときはすごく楽しかった思い出があり,記事を見返しても結構いろいろ考えられていた.当時の展示は未来技術とかがテーマだったので,やっぱり対象に対する興味と知識があれば現代アート作品が楽しめるのかなあ.

この後,美大の人と話す機会があったので現代アートについて聞いてみたが,その人は現代アートを好きだと言っていた.やっぱりこれを面白いと思う人はいるのか〜.その感覚を理解してみたい.

9/29 東京国立博物館(東京)

また東京に来る用事があった.なんでこんなに頻繁に東京に来るのかって?競技プログラミングっていうのがあってですね.......

例の東京で芸術をやっている友人が「国立博物館は仏像たくさん見れて面白いよ!」と言っていたのを思い出し,行ってみる.仏像は興味がある.というか仏教に興味がある.厨二病がいつまでも治らないので,仏教の無とか無限の世界観が好き.

常設展は500円だが,せっかくなら特別展も見てみようということで300円追加した.特別展にも色々種類があったが,「京都・南山城の仏像」を選択.

建物が色々あった.こういうのは端っこから順番に虱潰しに行きたい質なので,端っこの東洋館に行く.

仏像が色々ありますね〜.時代や地域によって表情がだいぶ違って面白い.中国とかの東アジアの仏像は平たくて柔らかい感じの表情の仏像が多いが,

インドとかパキスタンの仏像は,彫りが深くて凛々しい印象を受ける.

他にも,こんなのも特徴的だった.どこのか忘れたけど,東南アジアだった気がする.

東洋館は他にも古代エジプトのミイラとか像とかがあったり,

中国の絵画とか陶器とかがあったりした.これ,宝石で作られた柘榴なんだけど,すごくきれいだった.

東洋館だけで結構時間を潰してしまったが,次に本館に行く.本館は日本のものが展示されている.

刀.居合道をやっているのに,恥ずかしながら刀の展示とか全然見たことないんだよね.悔しいことに,まだ刀自体の芸術性をあまり感じ取れていない.

アイヌの服.北海道ツーリングの直後だったからテンションが上がったね.ゴールデンカムイで見たとおりだ.

甲冑.甲冑ってプロテクタで,兜ってヘルメットで,馬ってバイクなんだよね.つまり武将はライダーなんだよ.

これめちゃくちゃ格好いい.こういうの大好き.

本館の常設展を歩いていたら,半分も見れていないのに閉館時間まで残り30分くらいになってしまったので,駆け足で残りを眺めて,最後に軽く特別展を見に行った.ごめん,せっかく特別展を見たのにあまり感想がない.......写真が禁止だったので,見たときの感想を思い出せなかった.

この博物館,見るものが多すぎる!本館ですらまだ全部見られていないのに,全く手を付けていない建物が3つもある(平成館,法隆寺宝物館,黒田記念館).見たいものを絞って,何回も来るのがいいのかな.

いろいろなものを広く浅く見ただけだったから,珍しいものをたくさん見れて面白かったけど,薄っぺらい感想しか出てこなくて悔しいな.やっぱり見るものをもうちょっと絞るべきかもしれない.

1/20 国立西洋美術館(東京)

東京に引っ越すので,家を探しに来ていた.

暇があったので,今日はどこの美術館に行こうかなーと探していたら,上野の森美術館でやっている「モネ展」というのを見つけた.なんとなくポスターに描いてある絵がきれいだったので行ってみようかなと思ったが,人気すぎてチケットはとっくに売り切れていた.残念.
別の展覧会を探すと,お隣の西洋美術館でキュービズムの企画展をやっていた.これも興味があったがチケットは売り切れ.仕方なく,西洋美術館の常設展だけ見に行くことにした.

常設展は基本的に年代順に並んでいる.最初の方は宗教画ばかりだった.かなり初期の方は人間の形とかが少し歪で平面的な印象を受けたが,時代を追うごとに立体的になってくる.そして筋肉がムキムキになってくる.キリスト教にはそこまで興味がないので,適当に眺めて歩き去った.

途中から風景画,風俗画,静物画とかが目立つようになってきた.やっぱり上手ですなあという感想.油絵ってなんか全体的に色がくすんでて黄色っぽい感じがあるんだけど,夕方の空みたいな哀愁のある雰囲気が漂っていて良いと思った.ただ,全部の絵がそういう色なので,飽きてしまった.

さらに歩いていくと,急に色が鮮やかになり,明るい印象の絵が目立つようになる.印象派の時代である.

西洋美術の本を読んでいて,特に印象派の絵がなんとなく綺麗だなーという印象を持ったが,やっぱり美術館で実物を見てもそう思う.今までの絵とは一線を画している.

印象派コーナーに入ってからもうめちゃくちゃ楽しい.これいい!って思う絵が急に増えた.この辺とか特に良いな〜と思った.


色使いとか構図とか筆致の粗さとか何もかも良い.画家の名前を見ると,どちらもクロード・モネである.これがモネだったのか.モネ良すぎる.

やっぱり印象派良いなあ.わかりやすく美しいから大衆に人気であるらしく,そこは少し悔しさがあるのだが(わかりやすいもので満足したくないという気持ちがある),しかしこれを美しいと感じる自分は確実にいる.

それから先は百花繚乱の如くいろんなスタイルの絵がある.西洋美術の本に,印象派の後にポスト印象派とかフォービズムとかなんとかイズムとかなんとか主義というのがあるというのが書いてあったが,いまいち違いがよくわからなかったのでジャンルをちゃんと認識できていない.印象派っぽい雰囲気のものは全体的に好きだった.これとか良かった.色使いが良い.

時代を追うごとに抽象度が増していく.ピカソとかになると,何が描いてあるかはわかるんだけれど,別に美しいと思えない.......

そして抽象絵画になるともうまったく理解できない.

この辺の芸術,よくわからないし美しいとも感じられないのだが,それでもこれを面白いと思う人は確実に存在するわけだ.彼らは何をそんなに面白がっているのか,知りたい.
今は単に「理解できない」という状態である.理解したら面白いのかも知れないし,理解したうえでやっぱり面白くないと思うかも知れない.それでも良いから,とにかく理解したい.

今回の発見の一つは,絵を見ることで,自分は何に価値を感じるのかということが少しわかるということだ.いろいろな絵を見ると,自分が良いと思った絵,そうでない絵があるわけだが,良いと思ったものの共通点はなにか,自分はどこが良いと思ったのか,ということを分析することで,自分の隠れた価値観をあぶり出すことができると思うのである.
俺は印象派の絵が好きだった.その中でも,人物画よりは自然や建物などの風景画が好きだった.風景画をみて好きと思う感情は,旅行とかツーリングに行って,きれいな風景を見て良いと思う感情と同じである.結局,俺は風景が好きなだけなのだろうか.そうすると印象派以前の写実的な絵画のほうが,現実に近い風景を見れてよいはずである.しかしそうではないのは,色彩の鮮やかさから得られる感情と,細部を描かない筆致の粗さによって掻き立てられる想像力によるものだろうか.俺は風景を見るのが好きなのではなくて,風景を見ることによって得られる感情が好きなんだろうか?それは正しいような,正しくないような.......

やっぱりよくわかりませんでした.でも少なくとも,自分の価値観をより高い解像度で見るためのヒントが得られたとは言えるだろう.

1/21 東京国立博物館(東京)

いつからか,「たまたま暇ができたから美術館・博物館に行く」というより「美術館・博物館に行く暇をつくりつつ行動計画を立てる」というようになってしまった.

ふたたび東京国立博物館にやってきた.今回の目当ては企画展「本阿弥光悦の大宇宙」である.吉川英治「宮本武蔵」という小説で本阿弥光悦が出てきたから知っていた.なんか超優しいイケてる芸術家として物語に登場する.実際に彼がどのような作品を遺したのか,見てみようと思った.

写真はなし.

彼はありとあらゆる芸術を手掛けた天才であるらしい.日本版レオナルド・ダ・ヴィンチといったところだろうか.

展示は全4章からなる.第1章では彼の生い立ちとかに関する資料のほか,家業として鑑定をしていた刀剣の展示があった.刀のように鋭く尖っていたい.

第2章は蒔絵とかがあった.蒔絵の螺鈿のキラキラがかなり好きなんだよね.何もかもキラキラにするのではなくて,適切な場所を選んで部分的にキラキラにするのが良くて,どこを光らせるかにセンスが問われるところだと思っているんだけど,彼は正しいところにキラキラを置いたように見える(知らない.適当に言った).

第3章は書とかがあった.ここはほぼスルーした.なぜかというと,何が書いてあるのかまったく読めないから.内容と書体の対応が取れればなんらかの美しさとか情緒を感じ取れるのかも知れないが,今の俺にはくずし字(でいいのか?)を読む能力がなく,見たところで何も頭に入ってこないので,諦めた.くずし字の読み方,割と簡単に覚えられるものなら覚えてみるか.

第4章は,光悦が作った茶碗.彼はろくろをつかわずに手で土を成形して茶碗を作った.いろいろな色や質感の茶碗があって面白かった.
こういう,手作りの陶器とかが芸術として展示されているのを見るといつも,これは一般人にも作れるのではないか,と思ってしまう.作ったことがないので本当に素人の雑な感想であり,専門家からすれば絶対にそうではないのだろうと想像するが.ただ,大学のサークルで陶芸をやっている友人の作った陶器を見たことがあるが,それもいい感じだったぜ.芸術的と呼ばれる陶器は何か違うのだろうか.一般人には到達できない境地があるのだろうか.
こういうのって,実際に自分で作る工程を体験してみないと,真に良さが理解できない気がするんだなあ.

前日に見た,西洋の美とはまた違った感じのものを見られて面白かった.

3/2 東京都美術館(東京)

東京に引っ越したので,美術館に行き放題だぜ.

やっている展覧会を調べた.すると,東京都美術館で「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」という展示をやっているのを見つけた.このまえ西洋美術館に行って,印象派が良いと感じ,もっと見たいと思っていたところだったので,ちょうどよい.

ほとんど全部が印象派の作品だから,楽しい!

今回は展示の流れなどは無視して,特に気に入った作品を列挙してコメントする感じにする.

クロード・モネ「税関吏の小屋・荒れた海」

しつこいくらいにモネの作品を推しているが,仕方がない.ひと目見て,あ!これいい!と思ったのがたまたまほとんどモネだっただけである.何がいいんでしょう.色使いなのかな.

写真は図録から.

クロード・モネ「睡蓮」

もうね,モネしか勝たんもんね.

太田喜二郎「風景」

緑と茶色って,落ち着きますよね.

ジョゼフ・H・グリーンウッド「雪どけ」

川の感じが,いい!水の清らかさと,凍てつくような冷たさを感じた.

ジョン・ヘンリー・トワックマン「滝」

これが一番好きだった.水しぶきの表現がすごく真に迫っている感じがした.また,水の青がすごくきれいだと思った.直接この目で見たときはすごくこの青色に感動したんだけど,写真で見るとなんか印象が違うんだよなあ.光の当たり方とかの問題なのかな?


他にも素敵な絵がたくさんありました.全体的にコメントが薄い!というのも,今回はほぼ脊髄で鑑賞していたのである.直感的に良いと思う絵は,体が脊髄反射で反応してくれるのでそれとわかる.なんか涙腺の奥が刺激される感じがするんだよね.別に泣くとか涙目になるとかじゃあないんだけど,目の奥がじんわりする.それが良いと思う理由を認識する前にその絵を好きになっているから,それが良いと思う理由をちゃんと言語化できなくて,頭の悪いコメントしか出てこない.困った.

以前読んだ本に「展覧会の図録はいいぞ!専門家の本気の解説が読めるぞ!」と書いてあったのを思い出して,図録を買ってみた.ちょっと高いけど,物は試しということで.
今回の展覧会は好きな作品が多かったから,あとで見返せるというのは嬉しい.また,歴史的な背景や絵画の技術などについても専門家が解説しており,いろいろ知れて楽しい.

あとがき

見返したらオランダと東京の美術館しか行っていなかった.......
宮城でどこか行こうと思ったんだけれども,大学近くの宮城県美術館も仙台市博物館もリニューアルのため長期閉館している.結局,一度も行けないまま宮城を離れてしまった.まあ,帰省したときにでも.

去年の夏こそまったく芸術の知識がない状態だったが,繰り返し美術館に足を運ぶうちに,ちょっと面白さがわかってきた気がする.いい感じの趣味ができて嬉しい.

東京にはそれこそ無限に美術館があり,同じ美術館でも次の企画展が出るたびに行って新しいものを見ることができるので,しばらく飽きることはなさそうだ.さて,次はどこ行こうかな〜.