飛べ Falcon Heavy

今日の話題はロケットだ。

 

俺がロケットに興味を持ったきっかけは、高3の夏にSpaceX社のロケットFalcon Heavyの打ち上げ動画を見たことだ。それまで宇宙に対して漠然とした憧れはあったが、宇宙開発やロケットなどに対しての興味はあまり強くなかった。Falcon Heavyの打ち上げ自体はその年の2月に行われていて、ニュースで少し耳にしたのは覚えているが、その時は特に何も思わなかった。それがどうしてその動画を見たのかは覚えていないが、その動画を見て強い感動を覚えた。


Falcon Heavy Test Flight

まず簡単にSpaceXとFalcon Heavyについて説明しよう。SpaceXはアメリカの民間の宇宙開発企業で、2002年に俺が尊敬する起業家のイーロン・マスクによって設立された。元来宇宙開発は国が行うもので、冷戦期にアメリカとソ連が宇宙開発に多額の資金をつぎ込んでSpace raceを繰り広げたことは有名だ。しかし近年民間企業が宇宙開発に参入しようという動きが盛んになっており、SpaceXはその先頭を行く企業の一つだ。

SpaceXのロケットの最も重要な特徴は、再利用が可能であるということだ。通常のロケットは一度打ち上げられたら廃棄される使い捨てのものであるため、1回の打ち上げの費用は莫大で、とても民間企業が関われるものではない。しかしSpaceXは打ち上げたロケットを再び地球に着陸させ再利用する技術の開発に成功し、打ち上げ費用を従来の何分の一にも抑えることができた。スペースシャトルはオービター(飛行機みたいな部分)は再利用できたが、ブースターは使い捨てだった。SpaceXのFalcon 9やFalcon Heavyは、ブースター部分もすべて再利用可能である。こうしてSpaceXはコスト削減によって宇宙へのアクセスを容易にし、最終的には火星への移住を可能にすることを目指している。

 

Falcon HeavyはSpaceXが開発した最新のロケットで、現在利用されているロケットの中で最大のペイロード(積載重量)を誇る(歴代3番目、1位はアポロ計画のSaturn V)。2番目に大きいのはUnited Launch AllianceのDelta IV Heavyだが、Falcon Heavyはその3分の1のコストで2倍の重量を宇宙に運べる。さらにFalcon Heavyは1段目と2つのサイドブースターを着陸させ再利用できるという、驚異的なロケットだ。2018年2月にテストフライトが行われ、俺はその動画をその年の夏に見た。

 

ロケットの打ち上げを見るのは初めてで、まずその巨大さに驚いた。発射台に70メートルの巨大なロケットが燃料である液体水素の白い煙を出して立っている姿には圧倒される。そしてカウントダウンの後、ゴゴゴという轟音とともにFalcon Heavyが発射した。動画で見るだけでもものすごいエネルギーが伝わってきて、巨大な推力が生み出されているのがわかる。すさまじい音と光とともに、Falcon Heavyがゆっくりと上昇していく様子には感嘆した。よくもまあ、こんなにでかいものが飛べるものだなあ、と。見守る社員たちの歓声も聞こえてきて、彼らの熱狂ぶりもうかがえる。

 

ロケットはさらに加速し、宇宙へと向かう。途中でブースターとセンターコア1段目の切り離しがあって、その後フェアリング(宇宙に運ぶ荷物が入っているところ)が分離し、中に入っていたイーロン・マスクの赤いテスラのロードスターが火星に向かって飛び立つ。ロードスターについているカメラに映る地球はとても美しかった。青く輝く星を背景に、火星へとドライブなんてなんてロマンチックなんだろう。俺もいつか、宇宙に行って地球を見たいなあとしみじみ思った。

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地球を背景にロードスターに乗るスターマン

出典:CNNMoney

 

そして次はこの打ち上げショーのクライマックス、サイドブースターとセンターコアの着陸だ。サイドブースターは打ち上げ場所(フロリダのケネディ宇宙センター)の近くまで方向を変えて戻ってくる。一方センターコアは戻るには速度が速すぎるので大西洋上のドローンシップ上に着陸する。最初に戻ってきたのは2つのサイドブースターで、きれいに並んで大気圏に突入し、縦に立ったまま地上の着陸パッドへと降りてきた。燃料を噴射しながら減速し、円形の着陸パッドのど真ん中に、2つ同時に見ごとに着陸した。これには驚愕したし、熱狂する社員たちの歓喜の声に震えた。あまりの感動に涙さえ出そうになった。音速以上で航行するロケットを、地上何百キロも離れている宇宙からピンポイントで地面に着陸させたことには、人間の科学技術の高さ、素晴らしさというものを思い知らされた。打ち上げから着陸まで、すべてが計算され、それがその通りに起こったという事実に、強烈な感動を覚えた。一方センターコアの方は、途中で信号が切れて着陸したかどうかがわからなくなってしまった。結局残念なことに着陸には失敗したようだ(今年4月のFalcon Heavyの打ち上げでは、センターコアと2つのブースターすべての回収に成功している。)

 

これがきっかけとなって、宇宙開発、特にロケットに興味を持つようになった。ロケットはまさに人類の英知の結晶というにふさわしいもので、宇宙から超音速で巨大な金属の塊をボトルフリップして地球の狙った場所に立たせるというような一見不可能な芸当を、人間は科学を駆使してできてしまうのだ。これには本当に感動した。それと同時に、宇宙に対して強い夢を感じた。社員たちの歓喜からも感じたが、自分たちが手掛けたロケットが宇宙へと飛んでいくことにはとてつもないやりがいを感じるだろう。すべての計算がうまくいき、果てしない空へとロケットが飛んでいく。さらにFalcon Heavyの場合には、それが空から戻ってきて、地球に正確に着陸する。こんな経験ができたら幸せだろうな、とつくづく思った。

 

それ以来、宇宙開発のニュースに注意を払うようになり、本もいくつか読んだ。とくに「下町ロケット」は男たちの宇宙への夢を描いた小説で面白かった。SpaceXのロケットの打ち上げ動画はFalcon Heavy以来すべて見ており、見るたびにロケットを可能にする技術力に感心する。

 

インターネットの登場でIT革命がおこり、様々なベンチャー企業が誕生して人々の暮らしを大きく変えたように、これからは宇宙開発の分野で革命がおこるという。宇宙へのコストが小さくなり、民間の企業がどんどん参入してきて輸送、情報、エネルギーなど様々な領域で宇宙進出に伴う進歩が期待される。そして最終的には、イーロン・マスクが言うように、人間が多惑星種(Multiplanetary species)になれたら、きっと素敵な世界だろうな、と思う。