イーロン・マスク vs ジャック・マー!テック界の巨人、白熱の議論

先日、中国・上海で開かれた世界人工知能大会(WAIC)で、イーロン・マスクとジャック・マーが、人工知能や、人類の将来などについて対談した。

 


Jack Ma and Elon Musk hold debate in Shanghai

 

イーロン・マスクは、俺が尊敬する、アメリカを代表する起業家であり、宇宙開発のSpaceX、電気自動車のTesla、人工知能研究のOpenAI、そしてブレイン・マシーン・インターフェイスのNeuralinkなど、数々の革新的な仕事をしている企業、団体を立ち上げてきた。そしてジャック・マ―は、中国最大の通販サイト、アリババのCEOであり、世界的にも有名なテック界のリーダーの一人である。このような、まさに世界をけん引する人物たちが、WAICで対談することになった。テック好きにとっては見逃せない。

 

この記事では、俺が覚えている範囲で、彼らの対談の内容の面白いと思った部分を、俺の意見も交えながら紹介していきたい。

 

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世界を代表する起業家、イーロン・マスクとジャック・マ―

出典:TESLARATI.com

 

 

AIと「愛」

対談の始めに、このような会話がなされた。

 

イーロン:AIって「愛」って意味なんですか?なんか「愛」みたいに聞こえるような?

 

ジャック:AIがArtificial Intelligence(人工知能)って呼ばれるのは好きじゃないんだよね。私はAlibaba Intelligence(アリババ知能?)って呼びたいね。

 

ジャックはイーロンの質問をガン無視して、謎のジョークを突っ込んできたわけだが、(聴衆には結構受けた)たぶんイーロンが言っていたのは日本語の「愛」(あい、ai)のことだろうと思った。なんでイーロンがこんなこと知ってるのかは知らないが、まあ対談はこんな感じで始まった。

 

宇宙開発

イーロンはなぜ自分が宇宙開発をするのかについて、「人類の意識を未来へと存続させていくために、人類は宇宙に出て多惑星種になる必要がある」(訳は適当)と述べ、自らの企業、SpaceXが携わる宇宙開発の重要性を強調した。

 

対して、ジャックは、「まあすごいけど、俺は火星とか宇宙とか興味ないなー。俺はもっと地球のこと、人間のことを考えて、地球をもっとよくしていきたいなー」的なことを述べた。さらに、「イーロン、あなたはすごいし、我々はあなたのようなヒーローが必要だけど、我々のような地球のヒーローもいるね」とも述べ、宇宙開発よりもより身近な課題の解決を優先すべきともとれる発言をした。

 

これに対して、イーロンは、「いや、俺は別に地球が嫌いなわけじゃない、むしろ地球は大好きだよ。実際、テスラは環境にやさしい電気自動車を作っているからね。でも長い目で見た時に、人類の文明をできるだけ長く存続させるためには、人類は宇宙に目を向ける必要があるから、今から、少しずつでも始めたほうがいいんじゃないかな」と答えた。

 

これはどちらが言っていることも正しいと思う。確かに、何千年、何万年後に人類が存続している可能性を高めるには、宇宙へと飛び出す必要がある。もしかしたら、気候変動や核戦争、資源の枯渇などで、地球は居住不可能になるかもしれない。また何億年というスパンで見たら、太陽の膨張により地球は生き物が住める環境ではなくなる。人類の永続的な存続を保障するためには、手遅れになる前に宇宙開発を進めるべきだ。しかし同時に、今すぐ対策を打たなければ打たないような問題が地球には山積みだ。環境問題や海洋・大気汚染、貧困や戦争など、人類の存続にかかわるといっても過言ではない問題は、宇宙開発よりも先に解決されなければならないようにも見える。だからイーロンは対談の中で、「宇宙開発に割かれるべき資源は、地球上の全資源の0.1%以下であるべきだ。化粧品よりもちょっと多いくらいかな。まあ化粧することはいいことだと思うよ、知らんけど」とも述べ、地球の問題の解決も重要であることを強調した。しかし、誰かが宇宙のことも気にしている必要がある。それが、イーロン・マスクなのだ。

 

教育

教育について問われると、ジャックは「従来の教育は暗記したり、計算したりというスキルに重きを置いてきたが、そんなものはコンピューターの方が圧倒的に速く、効率的に、正確にできる。今、子どもたちに教えなければならないのは、創造的で、建設的な能力だ。それは、アートやダンスなどを通して育むことができる」と主張した。

 

また、イーロンは、「現在の教育は非常に遅い。テクノロジーを使えばもっと早く効率的な学習ができるというのに。特に授業とかは最悪だ、遅すぎる」と、時代に合った教育の変革の必要性を示した。

 

従来の教育の欠点は最近盛んに指摘されており、日本でも「マニュアル人間」的な生徒を大量生産する従来の仕組みへの反省から、大学入試改革をはじめとする教育の変革が起きている。これから、AIの時代で生きていくには、AIに代替される可能性が(今のところ)低い、創造的で、柔軟な思考力を育てていく必要がある。ジャックもその考えを持っており、これからの教育は、より人間らしい能力を養っていかなければならないと強調した。

 

一方イーロンは、教育の非効率性を指摘する。いまは、インターネットで様々な学習リソースにアクセスすることができ、様々な大学が講義を無料で公開している。YouTubeにも教育向けのビデオが豊富にあり、あらゆることが短期間で、しかも無料で学べる時代になった。そのため、教育現場にテクノロジーをもっと積極的に導入して、より効率的な学習を提供していく必要があると述べた。

 

AIと教育については、以前別の記事にも書いたので、興味がある人は読んでほしい。

 

randomthoughts.hatenablog.com

 

 

人間とAI、どちらが賢いか

ジャックは、AIは恐れるべきものではなく、私たちの生活を便利にする道具でしかないとの見方を示した。「コンピューターはclever(頭がいい)かもしれないが、smart(知恵がある)ではない。Clevernessは知識から生まれるが、smartnessは経験から生まれる。コンピューターはおもちゃであり、人間が発明したcleverな道具の一つに過ぎない。人間はコンピューターを作ったが、コンピューターは人間を作れない」と述べ、AIはあくまでも道具であり、人間を本質的に超えることはできないと主張した。

 

ジャックが話している間、イーロンは明らかに不満そうな表情を浮かべ、「いや、それには全く賛成できませんね」と反論。ジャックが「いいですね~~~(謎テンション)」というと、イーロンは「頭がいい人が侵す最大の過ちは、自分が賢いと思い込むことだ。コンピューターはすでに多くの面で人間よりも賢く、我々はただゴールをずらし続けているだけだ。昔は、チェスが上手なことがすなわち賢いことだったが、コンピューターはとうの昔に人間のチャンピオンを破っている。さらに、コンピューターが扱える自由度は増え続けている。チェスは割とシンプルで自由度の小さいゲームだったから、初期のコンピューターでも対処できた。いまは、チェスよりもずっと複雑で自由度の大きい、囲碁のようなゲームでも、コンピューターは人間を超えることができた。この傾向はさらに続き、さらに複雑な実世界の問題に対処できるようになるだろう。テクノロジーの発達するスピードは、想像するよりもずっと速い」と、AIの能力を過小評価するのは危険だと主張した。

 

これに関しては、俺はイーロンの意見に賛成する。確かに、現在のコンピューター、AIは、人間の柔軟で幅広い知能には及ばず、コンピューターは人間の道具であり、それ以上でもそれ以下でもない。しかし、それをそのまま人間の道具として支配下にとどめておくには、AIの可能性を正当に評価し、慎重な開発を進めていくべきだと考える。AI技術はここ数年で目覚ましい発展を遂げ、今まで誰も想像もできなかった技術が、生活の一部として当たり前の光景になりつつある。AIがいつまでもたわいのない道具であると思い込むのは愚かで、今、絶対に起こらないと思われていることが、たった数年で起こるかもしれない。ここは、イーロンの言う通り「自分が賢いと思い込まない」で、慎重にAI開発を進めていくことが、人類のためだと思う。

 

ところで、あまり知名度は高くないが、イーロンはOpenAIという汎用人工知能の研究機関の創業者でもある。イーロンは前々から人工知能の急速な発展に懸念を示していて、人類のために、安全な人工知能を作るというヴィジョンの下、OpenAIという組織を立ち上げた。OpenAIはすでに様々な革新的な研究をしており、AI業界に大きな影響を与えている。

 

他に面白かったこと

  • イーロンが、「次の2、30年で人類が直面する最大の課題は、人口爆発ではなく、人口崩壊(Population COLLAPSE)だ」と述べ、ジャックもそれに賛成した。すでに日本のような国では人口は減少し始め、その速度はさらに速まっていくと予想する。
  • ジャックが「コンピューターは論理があることは得意だけど、論理のないことは全くできないね。人間は何の理由もなく人を愛し、善いことをするけど、悪いことをするときは必ずそこには論理がある。コンピューターは、そういうのが得意なのかもね」というと、イーロンは「AI means love(AIは愛って意味ですよ)」と返した。二人とも、愛はとても大事だということには賛成した。
  • イーロンは、議論の途中何度か不満そうな態度を表していた。彼らの意見が衝突することが多く、特にAIは人間より賢くなれるかについての議論では、イーロンは半ギレで少し怖かった。
  • イーロンの最後の決め台詞:"Fight for the light of consciousness" (意識の光のために戦おう)。かっけー!

 

最後に

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テクノロジーの行き着く先は、ユートピアか、ディストピアか?

イーロン・マスクとジャック・マー、どちらもテック界のリーダーたる存在だが、テクノロジーに対する意見は大きく異なっていることに驚いた。

 

ジャックは、テクノロジーはユートピア的な世界をもたらすと予想しているようだ。テクノロジーの発展によって、人類は不便さから解放され、自分たちのことをより深く理解し、世界中の人々が幸せで意味のある人生を送ることができると考えている。そのためには、目の前にある問題を解決していき、未来への責任を果たす必要があると主張する。また、AIと人間は本質的に異なるものであり、AIが人間の知性を超えることはないと考える。

 

それに対して、イーロンは、ジャックほど楽観的ではないものの、テクノロジーの発展が社会問題を解決し、人生を豊かにできると信じている。また、人類の長期的な繁栄のために、地球だけではなく宇宙にも目を向けていく必要性を強調する。また、AIの可能性は過小評価するべきではなく、近い将来AIが人間の知性を超えることは十分可能だから、AIには慎重になるべきであるとも考えている。

 

この議論からは、テック界の権威からの興味深い意見が聞けて、大いに参考になった。これから未来について考えていく中で、一つの基準、足場としたい。また、イーロンの"The biggest mistake smart people make is to assume that they are smart"「賢い人が侵す最大の過ちは、自分が賢いと思い込むことだ」という言葉を心に留めておきたい。

 

そして、AIの意味は「愛」だ。