特異点の向こう

プログラミング,数学,哲学

インターネットの未来、Decentralized Web

今日は、Decentralized Web(Web 3.0)について紹介する。

 

Decentralized Webという言葉を聞いたことのある人は少ないだろう。実際、日本語で検索をかけても全くヒットしない。和訳するとすれば、「分散型ウェブ」といったところか。Decentralized Web、略してDWebは、その名の通り、情報が分散されているウェブであり、従来の、中心的なサーバーに情報が集約され、ユーザーがそれにアクセスするという手法をとるCentralized Webとは対極をなす。

 

この記事では、DWebは従来のウェブと何が違うのか、なぜDWebは生まれたのか、そしてDWebの可能性について説明する。

 

 

 

Webの変遷 ―Web 1.0から2.0へ

1990年代のインターネットは、Web 1.0だった。Web 1.0の特徴は、静的であることと、受動的であることだ。このときは、ただ文書がサーバー上に公開され、人々はそれを受動的に受け取り、消費するだけだった。リアルタイムで動的に変わるウェブページなど存在せず、ユーザー間の関わりもなかった。

 

2000年ごろになるとウェブに変革が起こる。コンテンツの制作者がインターネットのユーザーの手に移り、ユーザー参加型の、動的なウェブが誕生した。これが、現在のWeb 2.0である。ユーザーはインターネット上でお互いに交流するようになり、今まで一方通行だった情報が、あらゆるところから生み出され、巨大に発展していくようになった。この流れの中で、ブログやSNSが生まれた。

 

Web 1.0とWeb 2.0の違いを理解するのに、最もよい例は、オンライン版ブリタニカ百科事典とWikipediaの比較であろう。ブリタニカでは、記事は専門家によって書かれ、ユーザーはサーバーにアクセスしてその情報を受け取る。新しい出来事があっても、次の版が出るまで情報が更新されることはない。紙の事典を、そのままインターネット上にのっけただけである。それに対して、Wikipediaは、ユーザーによって記事が執筆される。ユーザーが専門家とは限らないが、間違いがあればそれは誰かに直され、次第に正確な記事になっていく。新たな出来事はすぐに記事に反映され、常に最新の情報が手に入る。このように、ユーザーが情報の消費者だけでなく、生産者にもなったのが、Web 2.0の特徴である。

 

インターネットの陰

 Web 2.0では、あるプラットフォームでの情報のやり取りはすべて中心的なサーバーに集積される。例えばTwitterでは、すべての投稿やフォロワーなどの人間関係のネットワーク、さらにはDMなど、Twitterに関するすべての情報は、Twitterのサーバーに集められ、処理される。この、Centralized Webの仕組みには、いくつかの欠点がある。

 

まずは、サービスの停止が簡単にできてしまうということだ。企業や政府がサーバーをシャットダウンしてしまえば、そこにあったすべての情報はインターネット上から消し去られる。もし仮にGoogle Driveがいきなりサービスを終了したら、Driveに保存していた情報は、もうアクセスできなくなる。そんなことが起こるわけないと思うかもしれないが、政治的な理由や、資本家たちの都合で、サービスが停止されることが十分あり得る。私たちの情報の所有者は、サーバーにある限りその企業や政府なのだ。

 

さらに、情報の所有者が私たちでなく、ウェブサービスを提供する企業ならば、私たちの個人情報の扱いも彼ら次第ということだ。グーグルやアマゾンなどの大企業は、ユーザーの個人情報を集め、広告を最適化することで利益を挙げている。年齢や性別などの基本的な個人情報から、検索履歴や購入履歴まであらゆる情報が中心的なサーバーに集められ、私たちの興味に合った広告を表示したり、商品を勧めたりするのに使われる。また、フェイスブックは、ユーザーから集めた個人情報を第三者に提供していたことが発覚して大きな問題になった。ウェブ企業たちは、利益を求めるあまり、ユーザーのプライバシーを無視して盲目に情報を収集する機械のようになってしまった。

 

さらに、一部のプラットフォームが巨大化しすぎることによる問題もある。IT業界はもはやGAFA(Google, Amazon, Facebook, Apple)の寡占となっており、これらの少数の巨大企業がインターネット上の大部分の情報をコントロールしている。これは検閲や情報のバイアスにつながり、表現の自由やプライバシーが侵害されかねないという事態になっている。

 

そこで現在のWeb 2.0に代わりうる次世代のウェブが、Decentralized Webである。

 

Decentralized Webとは何か

Web 3.0はまだ存在しておらず、その候補となりうるテクノロジーは様々ある。その一つが、ブロックチェーン技術を応用したDecentralized Webである。DWebでは、中心的なサーバーが存在せず、情報は暗号化されてネットワーク上に分散される。その情報は、サービスの提供者でさえも見ることができず、暗号を解くカギは自分だけが持っているのだ。これによって、ユーザーのプライバシーが守られ、情報の所有者は間違いなくユーザー自身になる。情報の検閲はなくなり、表現の自由が保障される。

 

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Decentralized Webの図解

 

これを可能にする技術が、近年話題になっているブロックチェーン技術である。ビットコインなどの仮想通貨に利用されているこのブロックチェーンは、簡単に言えばネットワーク上に分散され、改ざんが不可能な非常に堅固で安全な帳簿のシステムである。(開発者であるサトシ・ナカモトの正体が今もわかっていないというのもおもしろい。)ビットコインでは、お金のやり取りはブロックチェーン上に記録され、管理される。DWebでは、お金の代わりに情報が暗号化されてブロックチェーン上に保存される。

 

このように、DWebは、ブロックチェーン技術に支えられ、ユーザーのプライバシーや自由を重視した、新しいウェブの仕組みである。

 

DWebの課題

DWebが普及して、市民権を獲得するには、主に4つの課題を乗り越える必要がある。

 

1. ユーザーの獲得

現在のウェブは巨大で、すべての情報がそこにある。インターネットは多くの人にとって、生活に欠かせない存在になった。それに対して、現在のDWebはまだまだ小さいコミュニティーであり、人々を現在のウェブからDWebに移るように仕向けるのは難しい。

 

2. 表現の自由の悪用

Web 2.0では、情報が中心的なサーバーに集められる代わりに、不適切なコンテンツを排除する仕組みが発達した。しかしDWebでは、どのような情報も第三者に干渉されないようになっている。だからDWebは個人の理性的な判断、行動に頼るしかないのだが、2ちゃんねるのようなサイトを見ればそれが難しいことがわかるだろう。

 

3. 鍵の紛失

鍵なしでは、誰も自分の情報を盗み見ることはできない。逆に、鍵をなくしてしまえば、自分でもそれを見ることはできず、誰も助けることはできない。

 

4. 有料のコンテンツ

DWebでは、個人情報を収集して広告を表示するということはなくなるわけだが、その代わりにコンテンツの作成者に対して相当の金額を払うことになる。現在のインターネットで無料で手に入るサービスを、わざわざお金を払って手に入れようとするのかどうかは甚だ疑問だ。

 

DWebのアプリケーション5選

DWebのアプリケーション(DApp)をいくつか紹介する。

 

1. Graphite

Graphiteは、Google DocsのDWeb版のようなアプリケーションである。Graphiteで書いた文書はサービスの中心的なサーバーには送られず、暗号化されてDWeb上で管理される。

 

Graphite Docs

 

2. Augur

Augurは仮想通貨を用いた予測市場である。選挙の動向やスポーツの試合の勝敗、天気予報など、自分の予測に賭け、シェアを売り買いして、もし予測が当たったら、仮想通貨で報酬が支払われる。

 

Augur | A Decentralized Oracle & Prediction Market Protocol

 

3. Golem

Golemは、余ったコンピューティングのリソースをネットワーク上でシェアするプラットフォームである。世界中のコンピューターをつなぎ、一つのスーパーコンピューターのように働く。リソースの売買は仮想通貨で行われる。

 

home - Golem

 

4. OpenBazaar

OpenBazaarは、インターネット上で個人が商品を売買できるマーケットだが、eBayのように取引の間に企業がおらず、個人が直接取引するので、出店料がかからず、売り上げのすべてが販売者のもとに行く。支払いは仮想通貨のみ。

 

OpenBazaar

 

5. D.Tube

YouTubeのDWeb版。広告がなく、いいねの数に応じて動画の作成者に仮想通貨が支払われる。

 

DTube

 

最後に

 このように、Decentralized Webは、普及までにまだまだ困難な壁が立ちはだかっているものの、大きな可能性を持った次世代のインターネットの仕組みである。この記事が、現在のインターネットの問題点や、インターネットの未来について考えるきっかけになれば幸いである。

 

参考文献:WIRED Jan 2019