帰国子女 早稲田・慶応受験記

早稲田大学と慶応義塾大学の帰国子女入試が終わった。俺は早稲田の基幹理工学部と慶応の理工学部を受験し、どちらも合格することができた。来年以降受験する人の参考として、この記事では、受験のスケジュールや試験の内容、そして対策などを書く。

 

 

スケジュール

大まかなスケジュールを書くと、

 

早稲田:出願(7月上旬) → 第1次試験(筆記、9月上旬) → 第1次合格発表 (第1次の一週間後) → 第2次試験(面接、9月中旬) → 第2次合格発表 (第2次の一週間後)

 

慶応:出願(7月中旬) → 第1次合格発表(書類審査、8月末) → 第2次試験(小論文、面接、口頭試問、9月上旬) → 第2次合格発表(第2次の一週間後)

 

というようになる。どちらも同じような時期に出願、試験があるため、両方受ける人はかなり忙しくなる。また、帰国子女受験では最も早い方の大学なので、早慶が初めての受験という人がほとんどだ。

 

早稲田は7月上旬、慶応は7月中旬に出願がある。高校の卒業証明書や成績書、統一試験の成績に加え、早稲田は推薦状、慶応は志望理由書がいる。帰国前に書類は一通りそろえておけると、帰国後にやることが少なくなって楽になるだろう。

 

出願から2か月ほどは何もないが、この間に受験科目の勉強や面接練習を重ねておけると良いだろう。詳しい対策は後述する。

 

そして9月に試験が集中する。俺の場合は同じ週に早稲田の筆記と慶応の面接が重なっていたので、その週はかなり疲れた。ほかの学部と併願などすれば、もっと大変になるだろう。俺は併願をしなかったが、慶応の環境情報と理工を併願した人なんかは、環境情報の面接があって、次の日に早稲田の筆記、2日後に理工の面接という超ハードスケジュールだったみたいだ。もしそのような過酷な試験に耐える自信がないなら、むやみに併願をするべきではないだろう。

 

試験内容

早稲田

第1次試験は筆記試験で、理工学部は数学と理科(物理と化学)をそれぞれ90分で解く。

 

理科は物理と化学を合わせて90分で解くので、時間的にかなりきつい。物理は大問が2つあり、一つは力学でもう一つは電磁気だ(この傾向は変わるかもしれないが、ここ数年はずっとそうだ)。それぞれに小問が10個くらいあり、最初の5つくらいはかなり基本的な問題なのだが、残りはかなりえぐい問題だ。正確な計算と深い理解が求められる。しかし全部解けなくても、基本問題を確実に抑えることができれば、1次は通れるようだ。

 

化学は、今年は大問が3つあり、大問1は化学全般からの計算と知識問題の小問集合だ。問題につながりはなく、一つ一つはあまり複雑ではないのだが、計算がかなり面倒で、時間的に厳しい。大問2は電池と無機の融合問題で、大問3は天然有機の問題が出た。過去数年の問題を見る限り、有機で構造決定が出たことはないので、有機はとりあえず基礎的な知識を頭に入れるだけで対応できると思う。個人的に一番難しいと思うのは大問1で、やはり正確な計算能力が求められるのは厳しい。

 

数学は大問4つを90分で解く。今年は複素数平面、パラメーター関数、3次元ベクトル、確率漸化式の問題が出た。ここ数年の問題を見る限り、毎年微積、複素数、ベクトル、確率から問題が出るようだ。例年あまり難しくない問題が2つ、かなり難しい問題が2つ出るらしく、今年の場合は大問1がめちゃ簡単で、2が少し計算が面倒で、3は割と簡単で、4が激ムズだった。俺はとりあえず1、2、3は完答できたが(あってるかどうかは全然自信がない)、4番は全く手の付けようがなく、ほぼ空欄で出さざるを得なかった。予備校の先生によるとここ数年で一番難しかったらしい。しかし数学も理科と同様、基本的な問題をおさえて大問2つくらい完答できれば、1次は通れるらしい。

 

1次試験に合格したら、2次試験で面接をする。学部ごとに分かれ、それから7人ぐらいの班に分かれて、試験会場に連れていかれる。基幹理工では帰国生は4人しか1次を通らなかったが、他にも外国人学生(ほとんど中国人か韓国人)も一緒に試験を受けるので、会場には多くの人がいる。連れていかれた後は、順番に呼び出され、面接をする。帰国生から先に呼ばれるようで、俺はほとんど待つことなく最初に呼び出された。

 

試験官は二人おり、どちらも好印象の優しい方だった。志望理由、なぜ早稲田にしたか、アメリカの生活はどうだったか、他の大学は受験したかといった型にはまった質問を5分ほどされただけで終わりそうな雰囲気になり、「問題なさそうですね~何か質問はありますか?」と聞かれたので、「早稲田と慶応はよく比較されますが、これは絶対に慶応には負けない!というのはありますか?」と聞き、そこから5分くらい雑談した。なので全体としては10分、実質的には5分で面接は終わった。

 

俺はあまりにも早く終わったので驚いたが、先進理工を受けた友達は、面接が20分も続き、口頭試問までされたという。学部によって、面接の内容は大きく違うようだ。しかし、早稲田はあくまでも筆記試験の結果がメインであり、面接はそれほど重要ではないので、筆記が合格ギリギリか、面接でやらかさない限り落とされることはないようだ。落ち着いて取り組むことが大切である。

 

慶応

慶応の第1次試験は書類選考である。ここがかなり難関らしく、多くの人がここで落とされる。アメリカの人はTOEFL、SAT、SAT Subject (Math 2、Physics、Chem) を提出することになるが、この点数を取っていれば絶対に合格するというのはない。慶応にはTOEFLが100あればいいと一般に言われているようだが、TOEFL110の友達は書類で落とされた。彼はSAT Subjectの点数が低かったらしいので、理系はやはり理系科目の成績が重視されるようだ。SAT Subjectは最低でも700点は欲しいと思われる。IBは知らん。その他にももらった賞とか課外活動の成績なども参考書類として提出できるので、自慢できるようなことがある人は積極的に提出するようにしよう。

 

第2次試験では、小論文と口頭試問、そして総合面接が課される。受験者は俺の時は17人だった。まず午前中に小論文があり、60分、800字以内で設問に答える。今年の設問は、「東京オリンピックに関わるセキュリティの問題を一つ取り上げ、その重要性と科学技術を用いた対策を説明しなさい」という感じだった。問題は年々大きく違っており、去年なんかは「科学技術の理想」とかなり抽象的な話題だった。

 

小論文が終わった後は、約6人ずつ3つの班に分かれ(たぶん受験番号順)、1班ずつ口頭試問と面接を行う。最初の班は小論文が終わってすぐにそれが始まり、各班1時間半ほどかかるので、あとの班の人はそれだけ待つことになる。俺は運よく最初の班だったので待たずに済んだ。まあ後の方の班になったら待っているうちに口頭試問に備えて知識の確認とか、面接のために志望理由を確認したりしておくとよいかもしれない。班に分かれた後は、そこからさらに3人ずつA班とB班に分かれ、口頭試問と面接を行う。口頭試問は数学、物理、化学の3科目で、それに総合面接を加え計4つの面接を行う。一つ当たりの時間は15分で、3人で交代で4つの部屋を回る。回る順番は当日までわからない。俺は化学、総合、数学、物理の順で回った。総合面接が最初に来ることはないようだ。

 

口頭試問では、難しい問題はなく、基本的な概念をきちんと理解していて、説明できるかということが求められる。ホワイトボードに書きながら問題に答え、説明する。

 

化学では、連想ゲームのように問題が出され、俺の場合はまずエタノールの酸化(エタノール→アセトアルデヒド→酢酸)を問われ、その後酢酸の分子構造を詳細に説明させられた。また、「ちょうどここにペットボトルがあるのでペットボトルの問題だしまーす」みたいな感じで、ペットボトルを冷蔵庫に入れたらなぜつぶれるかや、ペットボトルの素材(ポリエチレンテレフタラート)の構造を問われた。他には、DNAとRNAの違いとか、電池の半反応式とかが問われた。俺は理論と有機から出題されたが、海外で無機と有機は勉強してませんとか言うと、そこからの出題は避けてくれるようだ。ほんとは勉強していても、苦手分野は嘘をついてやってませんというのも手だろう。

 

数学では、微分の定義や簡単な積分の計算、等比数列の和の証明、対数の説明、ベクトルの表す点、内積の2つの定義(絶対値と角度を使ったやつと、成分表示のやつ)の一致の証明、2次方程式(虚解)の解とグラフを問われた。証明といっても実際に書き出すわけではなく、証明の方針を口頭で簡単に説明する感じだった。ここでは計算能力ではなく、基本的な事項の理解が求められる感じだった。

 

物理では、壁に倒れかかっている棒の力とモーメントのつり合い、直流モーターの原理、熱力学第一法則を利用したフライパン内のエネルギー移動、光の回折を利用した現象などを説明させられた。俺は全分野から出題されたが、化学と同様にやってない分野があれば、そこからは出さないでくれるかもしれない。ここでもやはり、計算能力が求められているのではなく、法則や原理の理解を求められている。俺は残り5分くらいになったら面接官との雑談が始まり、興味深い会話を楽しんだ(笑)。「俺、昔MITに行ってたんだけどさー、アメリカってフレミングの左手の法則じゃなくて右手なんでしょ?」とか「へ―君はAIを勉強したいんだね~。まあこれからの時代需要あるよね~。ところでAI研究っていつごろから始まったか知ってる?」とか。

 

総合面接では、志望理由のほか、提出した参考資料についての質問、なぜ日本に帰ってきたのか、アメリカで頑張ったことは何か、日本で生活するうえで心配なことは何か、などと質問された。また、午前中に書いた小論文についても質問され、なぜこの問題点に着目したのか、と問われた。また最後に、何か質問はあるかと聞かれ、何も言わないのもよくないと思ったから、「先生は慶応義塾大学の出身ですか?」と聞いたら違うといわれたので、じゃあなんで慶応に就こうと思ったのか聞いた。こっちが面接官になった気分で面接官を面接してやった。そこから面接官の研究分野などの話も少しして、総合面接が終わった。

 

試験官は全体的に優しく、話しやすい印象だった。俺はA班だったのだが、B班の友達はかなりの圧迫面接で、Aが優しくてBが圧迫ということらしい。AとBの班分けはどう決まっているのかわからない。まあB班になっても落ち着いて対応しよう。また、最初はかなり緊張したが、部屋を2つ回るころにはかなり慣れてきて、落ち着いて話すことができるようになった。合計1時間の長い面接だが、落ち着いて取り組めれば大丈夫だと思う。

 

対策

早稲田

筆記試験のためには、高校範囲の勉強を一通り終わらせている必要がある。数学は数1から数3まで全分野の知識が必要となるため、海外の高校でやっていない分野は重点的に勉強しよう。特にベクトルは海外でやったことがない人が多いようなので、帰国前から少しずつ始めておくとよいかもしれない。

 

物理は、力学と電磁気から出題されるので、とりあえずこの分野は固めておこう。基本的な知識が定着していれば半分くらいの問題は解けるはずなので、まずは基礎を固め、余裕のある人は残りの問題も解けるように発展的な問題を解いて力を伸ばしていこう。

 

化学は、海外で無機と有機を勉強した人は少ないと思うが、その分野からも出題される。しかし有機は構造決定問題が出ないので、一通り知識を頭に入れるだけで十分だと思われる。基本的に無機と有機は暗記なので、帰国後からでも全然遅くないと思う。実際俺はアメリカで理論しか勉強しておらず、帰国時には有機は何もわからない感じだったが、とりあえず知識を覚えて十分対応できた。理論の方は、ちゃんと理解しておく必要があるので、現地校で化学をやっていない人は自分で勉強しておいた方がよいと思う。

 

過去問は、手に入る人は最低でも1年分はやっておくべきだと思う。それによって問題の難易度や形式、時間配分などを見ることができるからだ。俺は2、3年分を解いた。過去問を解いて、物理と化学どちらから解くかや、数学でどの分野を先にやるか決めておくのもよいかもしれない。

 

あと、勉強は海外にいるうちから進めておくと帰国後かなり楽だ。海外のカリキュラムと日本のカリキュラムは重ならないところが大きいし、難易度も大きく異なるため、日本の勉強は参考書などを用いて進めておくのがいい。ただ、海外にいるうちは現地校の勉強、統一試験の勉強、そして海外経験を楽しむことが優先なので、余裕があれば取り組む程度でいいと思う。

 

早稲田は面接はあまり重要ではなく、慶応を受ける人は慶応前に面接練習を多くすると思うので、早稲田のためだけに多くの時間を割く必要はあまりないと思う。ただ、志望理由やなぜ日本に帰ってきたかなどの鉄板の質問はちゃんと答えられるようにしておくべきだ。なぜほかの学校でなく早稲田を志望するのかも、理由を考えておこう。

 

慶応

書類審査は対策のしようがないが、強いて言えば海外にいる間に統一試験のスコアをできるだけ高め、そして課外活動などに取り組むことか。理系学部を受ける人は、SAT Subjectに特に力を入れるとよいかもしれない。また、課外活動の成績を参考書類として送ればそれだけ面接で言うネタが増えるので、積極的に取り組むべきだ。

 

小論文は、俺は特に何も対策しなかった。予備校で小論文の授業はあったけど、慶応の過去問とかは全く解いていないし、目も通していない。まあ小論文は論理的に考えを説明する能力が問われているから、特定の大学のためだけに対策しても大して変わらない気がする。知らんけど。もちろん、時間配分を見たり問題のフォーマットに慣れるために過去問をやることには越したことはないから、自分が必要だと思ったらやるようにしよう。

 

口頭試問と面接は、練習を重ねておくのがいいだろう。俺は予備校の先生やチューターと2、3回口頭試問と面接の練習をした。口頭試問は基礎的なことが問われるのであまり勉強するものではないが、不安な人は教科書などを読んで理解を定着させておくとよいだろう。総合面接では、志望理由は絶対に聞かれるのでそれはすらすらといえるようにし、またなぜ日本の大学にしたのか、なぜほかの大学でなく慶応にしたのか、アメリカと日本の違いは、とか、よく聞かれると思われる問題への答えも、一通り考えておくとよい。後は、営業スマイルの練習。また面接はこちらが一方的に話すのではなく面接官と会話をするものだから、会話を楽しめたら勝ちである。

 

最後に

早慶の受験は、帰国子女にとってとても重要だと思う。多くの人にとって最初の試験なので、試験の雰囲気などを経験しておくことは後に役立つと思うし、早いうちに私立をおさえておければ、冬以降国立を受けるときに、精神的にかなり楽になるだろう(まだやってないから知らんけど)。しかし、ここで気を抜かず、第一志望に向けて謙虚な気持ち(俺に最も欠けているもの)で勉強していきたいと思う。

 

来年以降、帰国子女受験を経験する人たちの参考になれば幸いである。質問があったら、遠慮なくコメントしてほしい。Twitterでの質問も受け付ける。