ベーシックインカムと人生の意味

ベーシックインカムという言葉を聞いたことがあるだろうか。

 

これは国民全員に無条件で政府から与えられるお金で、最低限の生活を送るのに必要とされる額が保障されている。UBI(Universal Basic Income)ともいわれる。従来の社会保障では支援を必要とする人だけにお金が支給されるのに対し、ベーシックインカムは分け隔てなく全員に与えられる。コンセプト自体は昔からあったようだが、AIによる仕事の自動化が現実味を帯びてきている中、注目されるようになった。

 

前半ではベーシックインカムの効果や実行可能性について最新の研究を引用しながらAI開発の見地から自分なりに検討してみたい。後半では、ベーシックインカムによってもたらされるかもしれない「働かなくてもいい社会」について考える。人間は、仕事をする必要がなくなった時、何をするのか。

 

ベーシックインカムは可能か

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そもそも、国民全員に十分なお金を与えることなどできるのか

 まず、ベーシックインカムの効果や実行可能性について考えたい。"Why we should give everyone a basic income"というTEDトークによると、2009年に、ロンドンの慈善団体がホームレスの人々13人に3,000ポンド(約38万円)を無条件で与えるという実験を行った。ホームレスの人々はただそのお金を自分に必要だと思うことに自由に使うようにとだけ言われた。彼らはただ酒やドラッグにすぐそのお金を使い果たしてしまうだろうという多くの人の予想を裏切り、1年後、7人は自分の家を持ち、全員が将来のプランを持っていた。皆意外なことに質素な生活を送り、自己の成長のために勉強をしたり、技術を習得したりしていたのだ。今までの社会保障では何の効果もなかったのに、無条件でお金を与えるだけで見違えるほどの変化が現れた。

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それのコストはどれくらいだったか。このプロジェクトにかかった費用は50,000ポンドで、従来の社会保障の費用のおよそ7分の1だったそうだ。社会保障をやめて、ただお金を与えただけで、小さいコストで大きな結果を得ることができた。

 

この実験は短期的で規模が小さく、これが成功したからといってベーシックインカムが成功するとは一概には言えない。ただ、この実験によって、低コストで高い効果を実現できる可能性があることが示された。だから、「ベーシックインカムは巨額の財源がいるから無理、絵に描いた餅」と思考停止するのではなく、しっかりと考えて議論に参加していくことが必要ではないか。

 

ここで、簡単な計算をしてみよう。もし日本国民1億2700万人全員に年100万円のベーシックインカムを与えるとしよう。総額は127兆円である。ところで、現在の社会保障給付費は約120兆円で、社会保障を全廃してベーシックインカムに統一すれば不可能ではない金額である。もちろん、こんな単純な議論でベーシックインカムを正当化するのはいけないし、そもそも社会保障を全廃するなど簡単にできることではない。しかし、ベーシックインカムはお金がかかりすぎて絶対無理、というわけではないということを知ってほしい。

 

コストの問題以外に、ベーシックインカムにはどのようなメリット・デメリットがあるだろうか。Wikipediaから主だったものをまとめてみると、

メリット
  • 貧困対策:貧困層にあるが、生活保護を受けるほど困窮していない人々への救済となる。
  • 地方の活性化:ベーシックインカムが全国一律なら、物価の低い地方の活性化につながる。
  • 少子化対策:ベーシックインカムは一人一人に与えられるから、子どもが多いほど所得が増える。
  • 社会保障の簡素化、行政コストの削減:社会保障制度のうちベーシックインカムで代替可能なものを廃止にすることで、運用コストを削減できる。
  • 余暇の充実:ベーシックインカムで最低限度の生活は保障されるから、労働と余暇の時間の割り当てがより柔軟にできるようになる。
デメリット
  • 個人の責任が重くなる:社会保障がなくなればすべて自己責任になる。それによって将来への不安の増幅や福祉水準の低下が懸念される。
  • 賃下げの懸念:皆がすでに一定の所得を得ているから、企業は給与を下げようとする。
  • 精神論:「働かざるもの食うべからず」
  • 労働意欲の低下:働かなくても生きていけるなら、なぜ働く?

といったところである。個人的には、メリットがデメリットを上回っているような印象を受けるが、当然もっと慎重で深い検討が必要である。

 

このように、ベーシックインカムは大きな効果をもたらし、かつ従来の税収の仕組みに大きな変更を加えなくても実現が可能かもしれない制度である。

 

AIの時代とベーシックインカム

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仕事が自動化されたら、ベーシックインカムに頼るしかないかもしれない

さて、これからAIによって仕事が代替されていくとなると話は変わってくる。以前「人間らしさとは」でも書いたように、近い将来仕事の約半数が自動化されることが予測されている。

 

randomthoughts.hatenablog.com

 もし本当にAIによって仕事が奪われ、多くの人が職を失うということになったら、失業者に対して何もしないわけにはいかない。そこで注目されるのがベーシックインカムである。すべての人にベーシックインカムを提供することで、AIに職を奪われても最低限の生活を保障することができるかもしれない。

 

そこで、俺はAIを含む自動化を図るビジネスに対して課税をし、それを財源の足しにすることを提案する。この施策には、次のようなメリットがあると考える。

  • AIには人件費がかからないため、自動化によって得た利益に課税し、富を国民に還元することで、格差是正につながる。AIによって創造された価値が人類に分配されるという形をとるため、テクノロジーは人類全体の幸福に寄与するという本来の目的を達成する。
  • AIを含む自動化導入の限界費用(導入量を1単位増やしたときのコストの増加分)が税金の分増加するため、人間の雇用がある程度保たれ、AI導入の速度を緩和することができる。これによって、自動化による社会の混乱を軽減でき、新しい人間の働き方を社会が模索する時間稼ぎとなる。

考えられるデメリットとしては、

  • 課税対象の単位、定義があいまいなため、正確な課税が難しいうえ、脱税行為が容易に行われる可能性がある。
  • AIの導入が遅れ、日本のAI研究が停滞し、国際競争力の低下、優秀な人材の流出といった問題が起こるかもしれない。
  • また自動化による効率化というメリットを失うことになるので、非効率的な人間の労働者を雇わざるを得ない企業の競争力低下につながる可能性も否定できない。

というのがある。しかし、急速なAI導入によって大量の失業者が出れば、国の経済はバブル崩壊後よりも落ち込むかもしれないし、自殺者も大幅に増えるだろう。そのため、AIに対する課税によってAI導入を遅らせ、富の再分配の仕組みを強化することによるメリットが、デメリットを上回るのではないかと考える。

 

これと同時に行っていかなければならないのは、教育を変えていくことだ。機械に(少なくとも近い将来には)代替されないスキルを、次世代の労働者には身につけさせないと、彼らに仕事も未来もない。具体的には、創造性やコミュニケーション能力、柔軟な判断力といった、AIには今のところ歯が立たない、人間特有の能力を育てていく必要がある。しかし、現在の日本の教育では、知識を詰め込み、マニュアル通りに問題を解いていく力しか身につかない。どんな計算も瞬時に正確にできる電卓という道具があり、知識の宝庫であるインターネットがポケットの中の板からアクセスできる時代になったというのに、いまだに日本では煩雑な計算をさせ、沈殿の色のような全く意味のないことを覚えさせている。貴重な若い脳をこのような無駄なことに使わせるのではなく、もっと人間らしい思考力を伸ばす教育に変えていかなければならないのではないか。しかし、近年アクティブラーニングを導入したり、センターに代わって記述式の問題に変更したりなど、このような方向に考え方がシフトしてきているのもまた事実である。効果は賛否両論だが、姿勢としてはいいのではないかと俺は評価する。AIの時代に人間らしく生きていくことのできる人間を育てていかなければ、この国の将来は暗い。

 

少し話がそれてしまったが、とにかく、AIに対して課税し、それをベーシックインカムという形で国民に分配していくことを、俺は提案する。

 

ベーシックインカムと人生の意味

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仕事の必要がなくなったとき、どう生きるか

ベーシックインカムが実現されたとしよう。すべての国民に、働かなくても最低限の生活ができることが保証された。そうなったとき、あなたは働き続けるか?

 

これは人類の根幹にある問いだと思う。人類は、歴史が始まって以来、ずっと働き続けてきた。より便利で、楽で、楽しい生活を求めて、人類は働き続けてきた。ほとんどすべての人は人生の半分以上を労働にささげ、労働を中心にして生活を営んできた。労働こそが人生であり、人生の意味は労働であり、労働をしていれば生きていくことができた。

 

それが突然、働かなくても生きていけることになった。ある人は、より多くの収入、豊かな生活を求めて、仕事を続けるだろう。またある人は、仕事が好きで、それなしでは生きていけないから、仕事をするだろう。仕事は小遣い稼ぎついでの趣味、程度の感覚で、働く人もいるだろう。もう仕事はしない、これからは遊んで暮らしていくという人も、いるかもしれない。

 

いずれにせよ、労働の意味は大きく変わってくる。働かなければ生きていけなかった時代には、人生の意味について深く考える必要はなかった。働く以外の選択肢がなかったからだ。皆それぞれ、こんなことをして社会の役に立ちたいとか、できるだけ儲けて楽しく生きたいとか、そういう人生の意味はあったかもしれないが、結局有無を言わず働かなければならないので、自分は何のために生まれ、何をして生きていけばいいのだろうか、という問いを深く考える人は少なかったのではないか。しかし、働くことが任意になれば、誰もが自由に人生を送れるようになる。そうなったときに、自分の人生の意味について深く考える必要が出てくる。選択肢は無限大だから、自分の中ではっきりとした価値観がないと、何をすればいいのかわからなくなり、結局何もないつまらない人生になってしまう。

 

じゃあ、人生の意味とは何なのか?おいしいものを食べ、面白い本を読み、友達と遊び、恋をし、楽しく生きることなのか?それとも世界全体の存続、繁栄に貢献することなのか?学問を究め、人類の知を高めていくことか?神に仕え、神の教え通りに生きることなのか?そもそも、人生に意味などあるのか?

 

全人類に共通の、決まった目的、与えられた意味というものはないと思う。神は存在しないと思うし、我々人類が存在しているのも目的があったわけではなく、偶然が重なっただけだ。世界は究極的には素粒子の相互作用でしかなく、そこに何の意味も存在しない。

 

しかし、人間は不思議なことに、意味が見いだせなければ前に進めない生き物だ。誰もが、意味のある人生を送ることを望み、常に人生に価値を見出そうとする。科学は人生の意味を教えてくれないから、それを求めて宗教を信じる人もいる。それはそれで素晴らしいことだと思う。宗教はすべてに意味を与えてくれるから、それによってはっきりとした価値観を持ち、意味のある人生を送ることができる。そうでない人は、自分で人生に意味を与えていく必要がある。自分は何をして生きたいのか、自分は何を大事にしたいのか、一人ひとりが考え、自分に合った人生を設計していくことになる。

 

人生の意味は教えてもらうものではなく、自分で決めるものである。人のまねをして生きるのではなく、自分で自分の生き方を開拓していかなければならない。人生の意味は人それぞれ違うから、他人と比べるのはやめて、自分らしい自分だけの生き方を作り上げていくことが大切である。

 

(名言出ました。心に留めておこう。)

 

俺だったら人生にどういう意味を与えるだろう。俺は何をして生きたいのか、何に価値を見出すのか。俺はもちろん、幸せに楽しく生きたいが、それ以上に、人類全体の幸福に寄与し、歴史に名を残したいという、漠然とした使命感がある。楽しいだけの人生は嫌だ。俺が死んだ後もずっと、誰かに俺の名前が知られていて、尊敬され続けるような人間になりたいと思っている。それに、俺は理系のことが好きで、将来はテクノロジーを通して社会にインパクトを与えたいとも思っている。だから、今のところの俺の人生の意味は、「テクノロジーを通して人類の繁栄に貢献し、後世に語り継がれるような偉業をなす」といったところか。もちろん、これは俺がもっと人生の経験を積むにつれて変わっていくかもしれない。人生の意味とは、人によって違うだけでなく、時間経過によっても変わっていける柔軟なものであってもいいと思う。大事なことは、一人一人が自分の使命について考え、価値のある人生を送っていくことだと思う。

 

Your work is going to fill a large part of your life, and the only way to be truly satisfied is to do what you believe is great work. And the only way to do great work is to love what you do. If you haven't found it yet, keep looking. Don't settle. As with all matters of the heart, you'll know when you find it.
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Your work is going to fill a large part of your life, and the only way to be truly satisfied is to do what you believe is great work. And the only way to do great work is to love what you do. If you haven't found it yet, keep looking. Don't settle. As with all matters of the heart, you'll know when you find it.
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 Your work is going to fill a large part of your life, and the only way to be truly satisfied is to do what you believe is great work. And the only way to do great work is to love what you do. If you haven't found it yet, keep looking. Don't settle. As with all matters of the heart, you'll know when you find it.

-Steve Jobs

仕事は人生の大部分を占めるが、本当に満足する唯一の方法は、自分が素晴らしい仕事だと思うことをやることだ。そして素晴らしい仕事をする唯一の方法は、自分の仕事を愛することだ。もしそれがまだ見つかっていないのなら、探し続けよ。ひとところに落ち着くな。心の問題はなんでもそうであるように、見つけた時にはそれがわかる。

 

結論

ベーシックインカムは、実現不可能な夢物語ではなく、適切な準備が整えば十分に実現可能な新しい社会保障のあり方である。また、AIに課税することによって、AIの社会的インパクトを軽減するとともに、AIによる付加価値をベーシックインカムを通して人類に還元することができる。ベーシックインカムが実現した社会では、個人が人生の意味、自分の価値観について考え、自分らしい生き方を模索していく必要がある。

 

俺はベーシックインカムに大きな希望を見出す。先人たちの絶え間ない努力の結果、人間はついに労働から解放され、自由に生きることが可能になるかもしれない。また、誰もが人間らしい、豊かな生活を送れる日が来るかもしれない。そして何より、皆が自分の人生に価値を見出し、意味のある人生を送ることができたなら、人類の一員としてこの上ない幸せである。